日々の雑記

小説の進捗報告、日々の記録など。

ミシンと金魚

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久々に小説を読んだ~~~!という小説。

文芸好きの友達がずいぶん前に勧めてくれた小説。この間文庫の棚にあるのを見つけて、いそいそと買った4冊のうちの1冊です。

 

新人賞みたいな若めの賞の小説は、ページをめくるのがだんだん辛くなっていくものが多く、「このどこがいいと思って賞を出したのだろう…いやたぶんこことかこことかこういう感じが評価されたのだろうけど、私はどうも駄目だな…」という感じで、読むのを若干敬遠していたんですが、でもほら! 時々こういう傑作もあるから!

考え抜かれて出された賞には違いないけれど、やっぱりこういう突出もあるので、こういう本と比べて賞を出すべきかどうか改めてご検討いただければ…と思いながら、しかしこれと比べるとほとんどが駄目になるだろう、それでは何の芽も出ていない土地が眼前に広がるばかりだし、賞を出さないと宣伝にならない=売れないという苦しい事情もあるのだろうし…とも思ったり。賞とは作品に与えられるべきものか、作家の将来性に与えられるべきものか(出版業界への寄与も含め)。ありがちな話。個人的には何でもいいよ、面白ければ、撒かないと芽も出ないし、と思いますが、でも時々こういう傑作が出るとやはり在り方が……脱線。小説の話に戻ります。

 

この話、読み始めて、ページをめくるたびにどんどんのめりこんでいき、ページをめくる手が頭から最後までまったく手が止まらず、結果時間も場所も全部忘れてこの話にどっぷり浸かりました。世界にこの小説の中の世界しかなかった。わかります? これまでの世界も現在の世界もぜんぶ消えて、この小説の中の世界だけになる感じ。頭の中だけじゃなく体ごと、体の存在する世界もみんな、この小説の中にまるごと入る。世界が小説の中に入る。小説が世界をのみこむ。

 

少しネタバレですが、

物語の中盤の主人公の次女を兄がかわいがるシーン、高い高いのあの場面、どう考えてもこの先事態は100%暗転していくしかないだろうと思う所でボタボタ泣きました。

ラストも危なかったけどラストは耐えられた。歯をくいしばった。でもあの好転の場面はだめだ。失われるしかない場面はどうしてもだめです。うぐう。

でもたぶんあそこで泣いた人は多いはず。アンケートを取りたい。どこで泣いたか。私は高い高いの場面です。映像で見ても泣きはしなかった。文章だから泣いた。頭から読み進めていかないとこの感じはわかってもらえない。語りなので、部分だけ取り出しても駄目なんです。頭から尾まで全部一つの生き物の話だから、全部いっぺんに読んでもらわないとダメ。分解できない。本当に本物の小説だった。

 

この小説の中で、好きな表現はいくつも出てくるんですが、106ページの「そのうちに青い薄物が空に掛かって、夕焼けがドレープんなって、日暮の鳴き声が重石になって、ミッドナイト・ブルーの空が、すとんと落ちた」というのが一番好きです。「重石」という所が一番好き。わかる。というかこの場面は全部好き。どういう場面かもそれも含めて二重に好き。それにここまで外来語を取り込んで使いこなしてるの本当にすごい。こういうのが読みたくて日本人をやっている。

でも、この部分も取り出して書いてみたら文章の持つ力が半減しているので、改めてやはりあの小説は一つの生き物なのだと思います。

人間がちゃんと書かれてて人生がきちんとそこにあった。さんざんな人生だったけど、問題はそこじゃなかった。そこを飛び越えて人間がいた。

風呂敷を畳んでいく感じじゃなくて、どんどん広げていってそこから人間がどんどん現れてくる感じ。途中からの繋がっていく感じが最高。一気に全部読んだほうがいい。お勧め。