日々の雑記

小説の進捗報告、日々の記録など。

本の感想(ケン・リュウ 紙の動物園)

背景知識なしの簡単な感想のみ。

冒頭一文で「これはもう名作だ」と直感する名作。

内容については書きませんが、とにかくうまい。ひたすらうまい。下手な人が書いたらお涙頂戴で終わりそうなところをそうはさせない。文章、構成、ストーリー、テーマ、思想、すべてが高いレベルでまとまっている。SF・ファンタジーも含みつつ、移民や家族といった社会的問題に人の内面から見た側面を加えていてGOOD。ブラボー。それでいて文章はあっさりとうまくてしかも短編。ここまで来るとブラボーを通り越してもはや脅威。

内容は少々アメリカナイズされた感じの味付け。人によっては少々くどいかも。味付けは濃いめ。でもそれは悪いことではない。読者によって必要な調味料の分量を見極められる確かな腕があるわけだから。だから味の濃さは作者の信頼度上昇につながる。これに限らず何もかも信頼度上昇につながる。技巧点10点満点中10.0。

技巧に力が振られていれば他がおろそかになりそうだけど、これに関してはしっかり骨太のテーマがあるのでその心配はなし。ストーリーはするする進んで行く。文章もするする進んで行く。文章うまい。うますぎる。作中の「軽蔑がワインのようにするすると喉を滑り落ちていった」なんて五体投地して拝む。それでいて短編というこの短さ。神は生きていた。

日本の小説ならもう少し控えめな感じになるとか、情景描写がもう少し入り込むんじゃないかと思うけど、これはとにかくあっさり。でも冷たいわけじゃない。人の体温を要所要所で感じさせつつ、でもベタつかず、湿度のない悲しみという感じ。個々の事情に必要以上に入り込まない。抑制が効いている。至る所にスキがない。

無垢な被害者ではない主人公が糾弾されるまでの悪人に至らない点もGOOD。ラオシーかわいい。紙の動物たちの生き生きとした描写は芸術点10.0、10.0、10.0。

一つの言葉に二つの意味、二つの場面を掛け合わせている箇所がいくつかあり。言葉や場面が針金のように結びついて有機的に機能している。芸術点10.0、10.0、10.0、10.0、10.0。隅々に張り巡らされた御業。

総合して10点満点中100点。悪いところがないです。ありがとうございました。読ませてくれて。